1. 3つの手法の全体像
| 手法 | リターンの扱い | 答えの形 | 当サイトのツール |
|---|---|---|---|
| 過去実績 (ヒストリカル) | 実際の過去データを そのまま再生 | 成功率 (過去の開始年のうち何%が生き残ったか) | 4%ルール検証 |
| 決定論 (デターミニスティック) | 毎年同じ 期待リターン | 1本の資産推移 (何年もつか) | つみたて取り崩し |
| モンテカルロ | 平均と振れ幅を決めて 乱数で何千回も試行 | 確率の分布 (成功確率・資産の幅) | モンテカルロ取り崩し |
2. 手法① 過去実績(ヒストリカル)
「1928年に引退していたら?」「1929年なら?」……と、過去の実際の市場データで取り崩しを追体験し、資産が尽きなかった割合=成功率を数える手法です。トリニティスタディがこの方式で、当サイトの4%ルール検証ツールは米国1928〜2025年のデータで再現しています。
長所
- 実際に起きたことに基づく — 世界恐慌、70年代インフレ、リーマンショックなど、現実の暴落・回復・インフレの「順番」が織り込まれています。
- 「株安とインフレが同時に来る」ような変数どうしの連動も現実のまま反映されます。
短所
- 過去は繰り返さない — 検証できるのは「過去に起きたパターン」だけ。過去より悪い未来は測れません。
- 標本が少ない — 30年窓は約70通りありますが、期間が重なり合うため実質的に独立した標本はずっと少なくなります。
- 米国という「成績優秀な市場」のデータである点にも注意が必要です(解説記事)。
3. 手法② 決定論(期待リターン一定)
「年率4%で運用できたとしたら」と毎年同じリターンを仮定して資産推移を1本描く手法です。つみたて取り崩しシミュレータや目標額からの逆算、FIRE達成年数、つみたて終了金額がこの方式です。
長所
- 分かりやすい — 前提と結果が1対1で対応し、「毎月いくら」「何年で達成」といった逆算に向きます。
- 計画の初期の目安づくりに最適です。
短所
- 変動がない世界は存在しない — 実際のリターンは毎年大きくブレます。
- シークエンス・リスクが見えない — 平均が同じでも「取り崩し初期に暴落が来るか」で結果は激変しますが、決定論ではこのリスクがゼロとして扱われます。取り崩し計画を決定論だけで立てるのは楽観的すぎるのはこのためです。
4. 手法③ モンテカルロ(乱数試行)
期待リターンと振れ幅(標準偏差)を決め、乱数でリターン系列を何千通りも生成して、成功した割合や資産額の分布を見る手法です。モンテカルロ取り崩しシミュレータがこの方式です。
長所
- 「幅」が見える — 運が良い場合・悪い場合・中央値が同時に分かり、シークエンス・リスクも自然に織り込まれます。
- 過去データに縛られず、自分の想定(低めのリターンなど)で試せる。
短所
- 結果は前提次第 — 期待リターンと標準偏差の設定を少し変えるだけで成功確率は大きく動きます。もっともらしい数字が出ますが、入力の質を超える精度は出ません。
- 単純なモデルでは、暴落後の回復傾向(平均回帰)や変数間の連動など、現実の市場が持つクセを再現しきれないことがあります。
5. なぜ答えが食い違うのか
たとえば「3,000万円を年4%で取り崩す」を3つの手法で見ると、決定論では「期待リターンが4%以上なら永遠にもつ」、過去実績では「9割強の開始年で30年もった」、モンテカルロでは「成功確率は前提次第で7〜9割」といった違う形の答えが返ってきます。
これは矛盾ではなく、それぞれが違う質問に答えているだけです。決定論は「平均どおりに進んだら?」、過去実績は「過去に起きたことに耐えられたか?」、モンテカルロは「想定の範囲でどれくらいの確率か?」。3つの答えがそろって初めて、計画の全体像が見えます。
6. 目的別の使い分け
- 最初の目安づくり・逆算 →「決定論」。目標額や毎月の積立額の当たりをつける。
- 取り崩し計画の耐久テスト →「過去実績」。歴史上の最悪期に耐えられたかを確認する。
- 不確実性の幅の把握 →「モンテカルロ」。うまくいかないシナリオがどれくらいあり得るかを見る。
おすすめの順序は「決定論で計画を作る → 過去実績で耐久性を確かめる → モンテカルロで幅を見る」です。3つの手法で見ても大丈夫そうな計画は、それだけ頑健だと言えます。